ベクトル空間とか環上の自由加群とかの基底の元の個数の話
ぱいですこんにちは.
基底の個数の話を知って面白いと思ったので書きます.
その前にいろいろ言葉の定義をおさらいしておこうと思います.
足し算や引き算ぽいことができる空間を群と呼んで,しかも演算が可換なら特にアーベル群と呼んだりします.
アーベル群でしかも掛け算ができて分配法則の成り立つ空間を環と呼びます.
掛け算の可換な環を可換環といいます.
環で割り算もできる空間を体と呼びます.
アーベル群$M $に対して環$R$の元によるスカラー倍の作用が定義されていて任意の$\lambda,\mu\in R,x,y\in M $で次が成り立つとき,$M $を左$R-$加群といいます;
・$\lambda(x+y)=\lambda x+\lambda y$
・$(\lambda+\mu)x=\lambda x+\mu x$
・$\lambda(\mu x)=(\lambda\mu)x$
・$1_{R}x=x$
特に体上の加群をベクトル空間といったりします.
たとえば環$R$自身は左$R-$加群とみなせます.
環の直積とかも加群とみなせます.
左$R$加群$M,N$に対して写像$M\rightarrow N$が和とスカラー倍を保つとき,この写像を$R$準同型と呼びます.
全単射な$R$準同型写像を$R$同型写像と呼び,そのような写像が存在するとき$M $と$N$は$R$同型であるといいます.
これは,「和やスカラー倍の構造が同じような空間」みたいなもんです.
同型という関係は,加群同士の同値関係となります.
左$R$加群$M $の部分集合$B$について,どの有限個の$x_{1},x_{2},...,x_{n}\in B$に対しても$\lambda_{1}x_{1}+\lambda_{2}x_{2}+...+\lambda_{n}x_{n}=0\Rightarrow\lambda_{1}=\lambda_{2}=...\lambda_{n}=0(\lambda_{1},...\lambda_{n}\in R)$が成り立つとき,$B$は$R$上で一次独立であるといいます.
$B$が一次独立で$M $のどの元も$B$の元のスカラー倍の和で一意的な表し方で書けるとき,$B$を$M $の$R$上の基底と呼びます.
ベクトル空間は必ず基底を持つことが知られてます.
実際,ベクトル空間$V$の一次独立な集合全体を$\mathscr{B}$とするとTukeyの補題から$\mathscr{B}$は極大元$B$を持ちますがこれが$V$の基底となります.
しかも,基底をどんなふうにとってもその元の個数は必ず一定であることもよく知られています.
環上の加群は一般には基底を持つとは限らないです.
たとえば$\mathbb{Q}$は$\mathbb{Z}$上の加群ですが基底を持ちません.
実際,$\mathbb{Q}$が基底$\{q_{1},...,q{n}\}$を持つと仮定すると,$q:=\frac{1}{2}q_{1}+...+\frac{1}{2}q_{n}$に対してある$a_{i}\in\mathbb{Z}$たちで$q=a_{1}q_{1}+...+a_{n}q_{n}$と表せて表示の一意性から$a_{i}=\frac{1}{2}$となりますが,これは$a_{i}\in\mathbb{Z}$に反します.
可換環上の自由加群については,基底をどんなふうに取っても基底の元の個数は一定であることが知られています.
でも,非可換環上の自由加群については,基底の取り方によって基底の元の個数が変わってしまうことがあるので,それについて書いて終わります.
体$\mathbb{k}$上のベクトル空間$\displaystyle V:=\prod_{i=0}^{\infty}\mathbb{k}$に対して,線形写像$V\rightarrow V$全体の集合を$R$とします.
線形写像$V×V\rightarrow V$の全体を$S$とすると,これは普通の和と写像の合成によるスカラー倍で左$R$加群となります.
$V$は無限次元だから同型写像$\varphi:V×V\rightarrow V$が取れて,これによって$R\ni\lambda\rightarrow\lambda\circ\varphi\in S$は$R$同型写像となります.
つまり$R$と$S$は$R$同型です.
各$f\in S$に対して$p_{f},q_{f}:V\rightarrow V$を$p_{f}(x)=f(x,0),q_{f}=f(0,x)$と定めると,写像$S\ni f\rightarrow (p_{f},q_{f})\in R×R$は$R$同型写像となります.
つまり$S$と$R×R$は$R$同型です.
以上から$R$と$R×R$は$R$同型です.
$\psi:R×R\rightarrow R$を$R$同型写像とすると,$R×R$の$R$上の基底は$\{(1_{R},0_{R}),(0_{R},1_{R})\}$とも取れるし${\psi(1_{R})}$とも取れて,基底の濃度が一意に定まらない例となっています.
なんか勢いでわーって書いて割りと適当なので割りと適当ですけど書きたいことは取り敢えず書けたと思うのでおしまいにします.
ごはん食べてきますさよなら~~
参考文献
3次方程式と4次方程式を代数的に解こうみたいな話になった
こんにちは,ぱいです.
このあいだフォロワーの人が3次方程式を解こうみたいなのやってたのに感化されました.
2次方程式$x^2+ax+b=0$(☆)の解の公式って中学校か高校かで習いますよね.
$x=\frac{a\pm\sqrt{a^2-4b}}{2}$みたいなやつです.
これは,☆を$(x+\frac{a}{2})^2=\frac{a^2-4b}{4}$と整理したら簡単に導けます.
1次方程式$x+a=0$も当たり前ですけど解けますね.
$x=-a$が解の公式です.
じゃあ3次方程式はどうなんだろーって思うと思うんですけど実はこれも解の公式があります.高校では普通習わないけど.
ググったらすぐ分かりますけどクソ長いです.
じゃあ実際に3次方程式$x^3+ax^2+bx+c=0$(△)を解いてみましょ~.
△の左辺を$f(x)$とおいておきます.
$f$を$\alpha$のまわりでテイラー展開して$f(x)=f(\alpha)+f^{(1)}(\alpha)(x-\alpha)+\frac{f^{(2)}}{2}(x-\alpha)^2+\frac{f^{(3)}(\alpha)}{6}(x-\alpha)^3$.
(テイラー展開っていうのを知らない人は,なんか関数を$x-\alpha$の多項式で書き直せる便利なものぐらいに眺めてください.)
変数を$X:=x-\alpha$と書き直すと,△を解くことは$g(X)=0$(ただし$g(x)=f(\alpha)+f^{(1)}(\alpha)X+\frac{f^{(2)}(\alpha)}{2}X^2+\frac{f^{(3)}(\alpha)}{6}X^3$)を解くことと同じですね.
$\alpha$を$-\frac{a}{3}$で取ると$f^{(2)}(\alpha)=0$で$g(x)=f(\alpha)+f^{(1)}(\alpha)X+\frac{f^{(3)}(\alpha)}{6}X^3$となります.
ここで$p:=\frac{6f^{(1)}(\alpha)}{f^{(3)}(\alpha)},q:=\frac{6}{f^{(3)}(\alpha)}$とおくと,△は$X^3+pX+q=0$と同じです.
つまり$X^3+pX+q=0$(▲)が解ければオッケーです.
$X=y+z$となる任意の$y,z$について, ▲は$(y+z)^3+p(y+z)+q=0$と同じです.
これを整理すると$y^3+z^3+(3yz+p)(y+z)+q=0$となります.
$y,z$を$3yz+p=0$となるように取れば$y^3+z^3+q=0$となります.
$3yz+p=0,y^3+z^3+q=0$となるような$y^3,z^3$は$t$の2次方程式$t^2+qt-\frac{p^3}{27}$の解なので,求められます.
ということはその3乗根$y,z$も求められて,$X$も求められて,$x$も求まるっていう寸法です.
わーい!
実際に$x$がどう表されるかはググってね.
ついでに,4次方程式も代数的に解くことができるので紹介します.
4次方程式も,さっきの3次のときと同じやり方で,$X^4+pX^2+qX+r=0$(▽)に帰着します.
$X^4$=-pX^2-qX-r$に対して任意の$\alpha$で$(X^2+\alpha)^2=(2\alpha-p)X^2-qX+(\alpha^2-r)$が成り立ちます.
この右辺の判別式を$D$として,$D=0$となるように$\alpha$を取ると,▽は$(X^2+\alpha)^2=(\sqrt{2\alpha-p}X-\frac{q}{2\sqrt{2\alpha-p}})^2$となります.
したがって,$D=0$をみたす$\alpha$さえ求められれば4次方程式は解けるということになります.
今,$D=q^2-4(2\alpha-p)(\alpha^2-r)$は$\alpha$の3次式で,3次方程式の解の公式を既にボクらは知っているので,$D=0$をみたす$\alpha$は求められて,したがって4次方程式は代数的に解けるということが分かりました!
わーい!
じゃあ実際に4次方程式の解の公式はどう表されるかっていうと,これもまたクッソ長いのでググってみてみてください.
高校までの知識で3次方程式や4次方程式は簡単に解けるのに解の公式が教科書とかに載ってないのって多分クソ長くて書ききれないからなんですかねー.
4次方程式までで解の公式があるんなら5次方程式の解の公式も気になる!って思うと思うんですけど,その話も書こうと思ったんですけど眠くなった&いろいろ予備知識っていうか準備っていうかがいるのでいつか暇なときにしますおやすみなさい.
何を書きたかったのかよく分からないマンになってしまった.
ヒルベルトの基底定理
おひさしぶりです.
生きてます.
冬休みぐらいからずっとフラフラ遊んでてあんまり勉強してなかったんですけど,先週ぐらいからまたちょこっと勉強するようになってきた気がします.(自分で言うのもあれだけど.)
やってみるとやっぱり数学楽しいので,この調子で頑張れていけたらなーって思います.
昨日本を読んでて,ヒルベルトの基底定理っていうものが出てきてへえーーと思いました.(語彙力)
面白いこととかはあんまり書けないけど,勉強しててへえ~って思ったこととかを月に1回ぐらいブログとかで書くようにしたらモチベ維持になるかなーみたいなのをちょっと思うのでメモみたいな感じで書きます.
ヒルベルトの基底定理というのは,
「 $A$ がネーター環なら多項式環 $A[X_{1},X_{2},…,X_{n}]$ もネーター環である.」
というものです.
ネーター環というのは,任意のイデアルの昇鎖 $\mathfrak{a}_{0}\subseteq\mathfrak{a}_{1}\subseteq\mathfrak{a}_{2}\subseteq…$ が有限番目で必ず止まる,つまり,ある $n\in\mathbb{N}$ 番目から $\mathfrak{a}_{n}=\mathfrak{a}_{n+1}=\mathfrak{a}_{n+2}=…$ となるような環のことです.
(この記事では環といったら単位元をもつ可換環を指すことにします.)
(ネーター環にはどのイデアルも有限生成であるとか色々同値な定義があるけどこの記事ではこれでいきます.)
さて,定理の証明をする前に,あとで使う補題をちょっと紹介しておきます.
$A$ を環(ネーター環じゃなくてもいい)として,$\mathfrak{A},\mathfrak{B}$ を多項式環 $A[X]$ のイデアルとする.
また,各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $\mathfrak{a}_{n}:=\{a_{n}\in A|a_{n}X^{n}+a_{n-1}X^{n-1}+…+a_{1}X+a_{0}\in\mathfrak{A},a_{n}\neq 0 \}\cup\{0\}$ とする.
$\mathfrak{b}_{n}$ も $\mathfrak{B}$ に対して同じように定める.
このとき次が成り立つ.
(1)各 $\mathfrak{a}_{n}$ は $A$ のイデアルで, $\mathfrak{a}_{0}\subseteq\mathfrak{a}_{1}\subseteq\mathfrak{a}_{2}\subseteq…$ となる.
(2)$\mathfrak{A}\subseteq\mathfrak{B}$ なら各 $\mathfrak{a}_{n}\subseteq\mathfrak{b}_{n}$ となる.
(3)$\mathfrak{A}\subseteq\mathfrak{B}$,各 $\mathfrak{a}_{n}=\mathfrak{b}_{n}$ なら $\mathfrak{A}=\mathfrak{B}$ となる.
(証明)
(1の前半)
$\mathfrak{A}$ が $A[X]$ のイデアルであることに注意すると $f,g\in\mathfrak{A},\lambda\in A$ なら $f+g,\lambda f\in\mathfrak{A}$ である.
よって,$a_{n},b_{n}\in\mathfrak{a}_{n},\lambda\in A$ なら $a_{n}+b_{n},\lambda a_{n}\in\mathfrak{A}$ となる.
つまり,$\mathfrak{a}_{n}$ は $A$ のイデアルである.
(1の後半)
$f\in\mathfrak{A}$ なら $Xf\in\mathfrak{A}$ なので,$a_{n}\in\mathfrak{a}_{n}$ なら $a_{n}\in\mathfrak{a}_{n}$ となる.
よって,$\mathfrak{a}_{n}\subseteq\mathfrak{a}_{n+1}$ が各 $n\in\mathbb{N}$ で成り立つ.
(2)
$\mathfrak{A}\subseteq\mathfrak{B}$ のとき $f\in\mathfrak{A}$ なら $f\in\mathfrak{B}$ なので,$a_{n}\in\mathfrak{a}_{n}$ なら $a_{n}\in\mathfrak{b}_{n}$ となる.
(3)
背理法で示します.
$\mathfrak{A}\subseteq\mathfrak{B}$,各$\mathfrak{a}_{n}=\mathfrak{b}_{n}$ のとき,$\mathfrak{A}\neq\mathfrak{B}$ であると仮定する.
すると,$\mathfrak{B}$ の元であって $\mathfrak{A}$ の元でないようなものが存在する.
そこで,そのような元のうち次数が最小のものを $f$ として,$\deg f=n$ とおく.
【$n=0$ のとき】
$f\in\mathfrak{b}_{0},f\notin\mathfrak{a}_{0}$ となって $\mathfrak{a}_{0}=\mathfrak{b}_{0}$ に反する.
【$n>0$ のとき】
$f=a_{n}X^{n}+a_{n-1}X^{n-1}+...+a_{1}X+a_{0}$,各$a_{i}\in A$ とおく.
このとき $a_{n}\in\mathfrak{a}_{n}=\mathfrak{b}_{n}$ なので,ある $g\in\mathfrak{B}$ で $g=a_{n}X^{n}+b_{n-1}X^{n-1}+…+b_{1}X+b_{0}$,各$b_{i}\in A$ となる.
ここで $h:=f-g$ とおく.
$\mathfrak{A}\subseteq\mathfrak{B}$ より $g\in\mathfrak{B}$ で $\mathfrak{B}$ はイデアルなので,$h\in\mathfrak{B}$ となる.
また,$g\in\mathfrak{A},h+g=f\notin\mathfrak{A}$ なので $h\notin\mathfrak{A}$ である.
そして,$h=(a_{n-1}-b_{n-1})X^{n-1}+…+(a_{1}-b_{1})X+(a_{0}-b_{0})$ より $\deg h < n$ である.
整理すると $h\in\mathfrak{B},h\notin\mathfrak{A},\deg h <\deg f$ である.
ところがこれは $f$ の取り方に反する.
よって最初の仮定は誤りで,$\mathfrak{A}=\mathfrak{B}$ となる. $■$
この補題を使うと,次の定理が成り立ちます;
$A$ がネーター環なら多項式環 $A[X]$ もネーター環である.
(証明)
$A[X]$ のイデアルの昇鎖 $\mathfrak{A}_{0}\subseteq\mathfrak{A}_{1}\subseteq\mathfrak{A}_{2}\subseteq…$ を任意にとる.
各 $\mathfrak{A}_{i}$ と各 $j\in\mathbb{N}$ に対して $\mathfrak{a}_{i_{j}}:=\{a_{j}\in A|a_{j}X^{j}+a_{j-1}X^{n-1}+…+a_{1}X+a_{0}\in\mathfrak{A}_{i} \}\cup\{0\}$ とする.
すると,このイデアル $\mathfrak{a}_{i_{j}}$ たちについて,さっきの補題(1)(2)より次の図のような包含関係が成り立つ.
(図のかきかたがよく分からなかったからアナログでw)
図の対角線をたどって, $A$ のイデアルの昇鎖 $\mathfrak{a}_{0_{0}}\subseteq\mathfrak{a}_{1_{1}}\subseteq\mathfrak{a}_{2_{2}}\subseteq…$ を考える.
今 $A$ はネーター環なので,この昇鎖はある $N$ 番目( $N\in\mathbb{N}$ )で止まる.
この $N$ に対して,上の図から, $i\geq N,j\geq N$ なら $\mathfrak{a}_{i_{j}}=\mathfrak{a}_{N_{N}}$ となる.
また,各 $j=0,1,2,…,N-1$ で $A$ のイデアルの昇鎖 $\mathfrak{a}_{0_{j}}\subseteq\mathfrak{a}_{1_{j}}\subseteq\mathfrak{a}_{2_{j}}\subseteq…$ を考えると,これもある $m_{j}$ 番目(各 $m_{j}\in\mathbb{N}$)で止まる.
ここで $M=\max\{m_{0},m_{1},m_{2},…,m_{N-1},N \}$とおく.
$i\geq M $ なら,各 $j=0,1,2,…,N-1$ で $\mathfrak{a}_{i_{j}}=\mathfrak{a}_{M_{j}}$,各 $k=N,N+1,N+2,…$ で $\mathfrak{a}_{i_{k}}=\mathfrak{a}_{N_{N}}$ となる.
また,$k\geq N$ なら $\mathfrak{a}_{M_{k}}=\mathfrak{a}_{N_{N}}$ となる.
まとめると,$i\geq M $ なら各 $j=0,1,2,…$ で $\mathfrak{a}_{i_{j}}=\mathfrak{a}_{M_{j}}$ となる.
よって,補題(3)より,$\mathfrak{A}_{M}=\mathfrak{A}_{M+1}=\mathfrak{A}_{M+2}=…$ となる.
つまり,$A[X]$ はネーター環である. $■$
$A$ がネーター環のとき,この定理をくり返し用いると$A[X_{1},X_{2},…,X_{n}]$ もネーター環であることが分かる.
これからも何か面白いこと勉強したらちょいちょい書いていきたいなーって思います.
おしまい.
参考文献
成田正雄,イデアル論入門,共立全書,1970.
自然数の個数と実数の個数の話
数学を専門にしていない人(高校で習う集合の簡単な予備知識ぐらいは仮定するかも)向けにおもしろい話をしたいので,僕が数学科で勉強して最初に感動した話を書きます.
いろんな集合の要素の個数を比べるっていう話.
(この記事では$1$以上の整数を自然数と呼ぶことにします.)
まずは,簡単なもので,アルファベットの個数とひらがな五十音の個数を,どっちが多いか比べてみましょう.
まあ当然平仮名の方が個数は多いですよね.
アルファベットは$26$個しかないけど平仮名はもっと沢山ありますから.
(ところで,ひらがなって$50$文字あるのかと思ってたんですけど数えてみたら$46$個しかないんですね.なんで五十音って言うんだろう.)
いま僕たちはアルファベットの個数も五十音の個数も知っていたから簡単に個数を比べられましたよね.
でも,じゃあ,もしアルファベットや五十音の文字数を知らない人がいたら、その人はどうやって個数を比べたらいいんでしょうか.
その答は単純で,運動会の玉入れの結果発表みたいに,ひとつずつ対応をさせていけば個数が比べられます.
$1$文字目「A」「あ」,$2$文字目「B」「い」,...,という風に比べてみると,アルファベットは$26$文字目の「Z」で終わりますが平仮名の$26$文字目は「は」でまだまだ文字が余ってます.
それで,対応が途中で途切れてしまうので平仮名の方がたくさんあるというのが分かります.
数学で集合の要素の個数を比べるときは,この対応づけるやり方を使います.
そうすると,集合の要素が無数にあるような集合同士でも簡単に要素の個数を比べることができます.
たとえば正の奇数と偶数の個数を比べてみましょう.
なんとなく直感的に,どちらも同じだけ存在していそうな感じがしますよね.
実際,$1$番目の奇数「$1$」と偶数「$2$」,$2$番目の奇数「$3$」と偶数「$4$」,...,$n$番目の奇数「$2n-1$」と偶数「$2n$」,...というふうにしていくと,どちらかが先に尽きるということなく一対一に対応がつきます.
また,今の比べ方から分かるように,正の奇数全体の個数と自然数全体$\mathbb{N}$の個数も同じであることが分かります.
正の奇数全体を$A$と書くことにします.
$A\underset{\neq}{\subset}\mathbb{N}$だし,直感的にはなんとなく奇数は自然数の半分ぐらいしかなさそうな気がしますよね.
ところが実際に要素の個数を比べてみると同じになるって,すこし不思議な感じがします.
無限という数はめちゃくちゃ大きいので,半分にしたぐらいでは小さくならないんですね~.
自然数全体$\mathbb{N}$と整数全体$\mathbb{Z}$も要素の個数も同じように考えられます.
直感的に自然数は整数の半分ぐらいしか無さそうだし,無限は半分にしたぐらいでは小さくならないので,個数は同じと言えます.
厳密には,整数を$\{0,-1,1,-2,2,...,-n,n,...\}$と並べ直して各自然数$2n-1,2n$にそれぞれ整数$n-1,-n$を対応させるとこの対応はどちらかが先に尽きるということなく一対一の対応になっています.
今度は,自然数全体$\mathbb{N}$と有理数全体$\mathbb{Q}$の要素の個数を比べてみましょう.
同じように無限の大きさは半分にしたぐらいでは変わらないので,有理数は正のものだけを考えて大丈夫です.
正の有理数全体を$\mathbb{Q}_{+}$と書くことにして、$\mathbb{N}$と$\mathbb{Q}_{+}$の要素の個数を考えてみましょう.
$\mathbb{Q}_{+}$の各要素は$m,n\in\mathbb{N}$を用いて$n/m $と書けますね.
また,各自然数は少し素因数分解をすると$m,n\in\mathbb{N}$を用いて$2^{n}(2m-1)$と書くことができます.
そこで各$2^{n}(2m-1)$と$n/m $を対応させると,この対応はどちらかが先に尽きてしまうということなく一対一に対応できています.
これもなんだか気持ちわるい事実ですよね~.
数直線とか見てみると,自然数って$1$ずつの間隔でポツポツとしか存在してないのに有理数はわりとギッシリ存在してるし,直感的には有理数のほうがはるかに沢山ありそうな感じがするのに!
ここまでをまとめると,偶数や奇数,整数,それに有理数も,みんな個数は自然数と同じということでした.
じゃあ今度は,実数全部の個数と自然数の個数を比べてみましょう.
この流れだと実数も自然数と同じだけあるのかなーと思ってしまうかもしれないですが,じつは実数のほうが自然数より真にたくさんあるんです.
無限にもいろいろ大きさがあって,実数全体の無限のレベルは自然数や整数とかの無限のレベルよりもめちゃめちゃ大きいんです.
ではそれを証明していきましょう.
じつは区間$[0,1]$内にある実数の個数だけでも自然数全部よりはるかに多いので,それを示してゆきます.
自然数と$[0,1]$内の実数の要素の個数が同じであると仮定します.
つまり,自然数と$[0,1]$内の実数に一対一の対応がつけられると仮定します.
自然数「$1$」に対応するなにか実数があるのでそれを「$a(1)$」として,自然数「$2$」に対応する実数を「$a(2)$」として,...,自然数「$n$」に対応する実数を「$a(n)$」として,...というふうに$[0,1]$内の各実数に番号がつけられます.
それで,各$a(n)$たちを十進展開して次のように表示しておきます.
(各$a(n)_{m}$は$0$から$9$までの整数のどれか.)
$a(1)=0.a(1)_{1}a(1)_{2}a(1)_{3}...a(1)_{n}...$
$a(2)=0.a(2)_{1}a(2)_{2}a(2)_{3}...a(3)_{n}...$
$a(3)=0.a(3)_{1}a(3)_{2}a(3)_{3}...a(3)_{n}...$
...
$a(n)=0.a(n)_{1}a(n)_{2}a(n)_{3}...a(n)_{n}...$
...
この$a(n)$たちに対して,次のように作った数$x\in[0,1]$を考えてみます.
$x$を十進展開して次のように表示します.
$x=0.x_{1}x_{2}x_{3}...x_{n}...$
各$x_{n}$たちは$0$から$9$までの整数で,次のように決めていきます.
まず,$x_{1}$は$a(1)_{1}$とは違う整数をにします.
つまり,たとえば$a(1)_{1}=2$なら$x_{1}$は$2$でない整数($3$とか$4$とか)という感じ.
次に,$x_{2}$は$a(2)_{2}$と違う整数にして,$x_{3}$は$a(3)_{3}$と違う整数にします.
そういうふうに,各$x_{n}$を$a(n)_{n}$と違う整数にして作った$x$という数を考えます.
こうして作った$x$は$[0,1]$内の数なので,仮定から,ある何番目かの自然数$m $に対応しているはずです.
つまり,ある自然数$m $で$x=a(m)$となるはずです.
ところが,$x$の作り方から分かるように,$x$の小数$m $位と$a(m)$の小数$m $位は異なる整数になっています.
これは矛盾しているので,仮定が誤りだったということになります.
つまり,自然数の個数と実数の個数が同じという仮定が誤りで,実数のほうが自然数よりもはるかに多いということが分かりました.
わーい!
無限って直感に反するような気持ち悪いことが色々起こって不思議.
おしまい.
ツォルンの補題
こんにちは,ぱいです.
寒いですね.寒いのに雪が降らない.
雪が降れば寒くてもちょっとワクワクするのにね.こんなこと言ったら雪国の人たちに殴られそうだけど.
にゃーんって感じです.
そういえばなんかツイッターのアカウントが消えてますけどまあ寂しくなったら多分また復活します.
にゃーん.
ところで,
年末ぐらいに,選択公理⇔Zornの補題 の証明を書こーってツイートした記憶があるので,忘れないうちに書いておきますね.
とりあえず主張を.
任意の非空集合族$\{X_{\alpha}|\alpha\in A\}$に対して,$\varphi(\alpha)\in X_{\alpha}(\forall\alpha\in A)$となる写像$\varphi:A\to \underset{\alpha\in A}{\cup}X_{\alpha}$(選択関数)が存在する.
任意の帰納的順序集合は極大元をもつ.
帰納的とか極大とかの定義をたぶん前までの記事で書いてないので書いときます.
順序とかの定義はたぶんどこかで書きました.わからなかったら過去記事を漁ってください.
順序集合$X$が帰納的である.$\overset{def}{\Leftrightarrow}$任意の全順序集合$Y\subseteq X$が$X$で上限をもつ.
(順序集合$X$で)$m\in X$が極大である.$\overset{def}{\Leftrightarrow}$$m\leq a\Rightarrow m=a(\forall a\in X)$.
最大と極大ってなんかややこしいですよね.
僕は最初のころどう違うのかよく分かんなかったです()
最大元はどの元と比べても一番大きいやつで,極大元は比べられる元たちの中では一番大きいものという感じです.
さて、次の定理を考えてゆきましょー.
定理.
この定理を示していく前に,ひとつ命題を紹介しておきます.
任意の半順序集合は(包含関係で)極大な整列部分集合を含む.
(この命題を☆と呼ぶことにします.)
この命題☆について,次が成り立ちます.
この補題を使うと定理の証明が少し楽になる(気がする)ので,まずはこれから考えてゆきましょー.
細かい記号とかは前の記事とかを参照してください.$W<a>$で切片とか.
(補題の証明)
任意の帰納的集合$X$を考える.
$X$の整列部分集合全体の集合を$\mathbb{A}$とすると,☆の条件から$\mathbb{A}$は包含関係での極大元$M $をもつ.
いま$X$は帰納的なので,$M $は上界$a$をもつ.
このとき,じつは$a\in M $となる.
それを背理法で示す.
$a\notin M $と仮定する.
$N:=M\cup\{a\}$に次のように順序を入れる.
$\forall x,y\in N,x<_{N}y\overset{def}{\Leftrightarrow}x<_{M}y\lor y=a.$
すると$N$は整列集合となり$N<a>=M$となるが,これは$M $の極大性に反する.
よって$a\in M $である.
したがって,$a$は$M $の最大元である.
また,$a<_{X}b$となる$b\in X$が存在すると仮定すると,$M\cup\{b\}$でさっきと同じ議論をして矛盾が出てくる.
よって,この$a$が$X$の極大元である.$■$
はいじゃあ今度は定理のほうを証明していきましょー.
いま示した補題を使ったら,このあいだの記事で選択公理から整列定理を示したのとほとんど同じやり方で証明ができます.
任意の半順序集合$X$を考える.
$\varphi:2^X\to X$を選択関数とする.つまり,$\forall Y\subseteq X, \varphi(Y)\in Y$.
また,$X$の整列部分集合全体を$\mathbb{W}$として,$A$で添え字づけて$\mathbb{W}=\{W_{\alpha}|\alpha\in A\}$としておく.
そして$W=\underset{\alpha\in A}{\cup}W_{\alpha}$としておく.
あと,各部分集合$Y\subseteq X$についての次の性質をPと呼ぶことにする.
(P1)$Y$は整列集合である.
(P2)各$y\in Y$について$P_{Y}(y):=\{x\in X|\forall p\in Y<y>,p<_{Y}y\}$として,$y=\varphi(P_{Y}(y))$となる.
性質Pをみたす集合全体を$\mathbb{Y}$として,$\mathbb{Y}$を$\Lambda$で添え字づけて$\mathbb{Y}={Y_{\lambda}|\lambda\in\Lambda}$としておく.
また,$Y=\underset{\lambda\in\Lambda}{\cup}Y_{\lambda}$とする.
整列定理のときみたいに,3つのステップに分けて考えていきます.
ステップ1
各$\lambda,\mu\in\Lambda$について次のうち1つのみが必ず成り立つ.
(ア)$Y_{\lambda}=Y_{\mu}$.
(イ)$\exists l\in Y_{\lambda},Y_{\lambda}<l>=Y_{\mu}$.
(ウ)$\exists m\in Y_{\mu},Y_{\lambda}=Y_{\mu}<m>$.
ステップ2
$Y$は性質Pをみたす.
ステップ3
$Y$は$\mathbb{W}$の極大元である.
じゃあ,順番に示していきます.
(ステップ1)
整列集合の比較定理から,各$\lambda,\mu\in\Lambda$について次のうち1つのみが必ず成り立つ.
(あ)$Y_{\lambda}\cong Y_{\mu}$.
(い)$\exists l\in Y_{\lambda},Y_{\lambda}<l>\cong Y_{\mu}$.
(う)$\exists m\in Y_{\mu},Y_{\lambda}\cong Y_{\mu}<m>$.
まず(あ)が成り立つ場合を考える.
$f:Y_{\lambda}\to Y_{\mu}$を順序同型写像とすると,$f$は恒等写像となる.
それを背理法で示す.
$f$が恒等写像でないと仮定する.
すると,$S:=\{y\in Y_{\lambda}|f(y)\neq y\}$として$S\neq\emptyset$となる.
そこで$S$の$\leq_{Y_{\lambda}}$での最小元$m $が取れる.
ここで,整列定理のときの証明と同じようにして$Y_{\lambda}<m>=Y_{\mu}<f(m)>$とわかる.
このとき,$P_{Y_{\lambda}}(m)=P_{Y_{\mu}}(f(m))$となり$m=\varphi(P_{Y_{\lambda}}(m))=\varphi(P_{Y_{\mu}}(f(m)))=f(m)$となる.
ところがこれは$m\in S$に反する.
よって$f$は恒等写像となる.
したがって(ア)が成り立つ.
同様にして,(い),(う)に対してそれぞれ(イ),(ウ)が成り立つ.$■$
(ステップ2)
$Y$に整列定理の証明のときと同じ順序を入れておく.
すると$Y$は(P1)をみたす.
あとは$Y$が(P2)をみたすことを示せばよい.
任意の$y\in Y$を考えると,ある$\lambda\in\Lambda$で$y\in Y_{\lambda}$となる.
このとき,整列定理のときの証明と同じで$Y<y>=Y_{\lambda}<y>$となる.
すると$P_{Y}(y)=P_{Y_{\lambda}}(y)$となり,$\varphi(P_{Y}(y))=\varphi(P_{Y_{\lambda}}(y))=y$となる.
よって$Y$は性質Pをみたす.$■$
(ステップ3)
背理法で示す.
$Y$が$\mathbb{W}$の極大元でないと仮定する.
すると,ある$\alpha\in A$で$Y\underset{\neq}{\subset}W_{\alpha}$となる.
そこで,$a\in W_{\alpha}-Y$をとり,$Z:=Y\{a\}$とする.
$Z$には次のように順序を入れておく.
$\forall z,w\in Z,z<_{Z}w\overset{def}{\Leftrightarrow}z<_{Y}w\lor w=a$.
すると$Z$は(P1)をみたす.
また,$Y$は(P2)をみたすし$P_{Z}(a)=\{a\}$より$\varphi(P_{Z}(a))=a$なので,$Z$は(P2)もみたす.
よって$Z\in\mathbb{Y}$となるので,$Z\subseteq Y$つまり$a\in Y$となる.
ところがこれは$a$の取り方に反する.
よって$Y$は$\mathbb{W}$の極大元である.$■$
以上のステップから,選択公理⇒☆が示された.
こっちは割りとあっさりしています.
任意の非空集合族$\{X_{\alpha}|\alpha\in A\}$を考える.
$F:=\{f:B\to\underset{\alpha\in A}{\cup}:選択関数|B\subseteq A\}$とすると,$F$は帰納的な集合となる.
よって,Zornの補題から$F$は極大元$m:M\to\underset{\alpha\in A}{\cup}X_{\alpha}$をもつ.
このときじつは$M=A$である.
それを背理法で示す.
$M\neq A$と仮定すると,$\lambda\in A-M$が取れる.
この$\lambda$に対して,$a\in X_{\lambda}$が取れる.
そこで$N:=M\cup\{\lambda\}$として,$f:N\to\underset{\alpha\in A}{\cup}X_{\alpha}$を各$\alpha\in N$に対して次のように定める.
$\alpha\in M$なら$f(\alpha)=m(\alpha)$,$\alpha=\lambda$なら$f(\alpha)=a$.
するとこの$f$は選択関数になっていて,$m\underset{\neq}{\subset}f$である.
ところがこれは$m $の極大性に反する.
よって$M=A$となるので,$m $が$\{X_{\alpha}|\alpha\in A\}$の選択関数となっている.$■$
はいおしまい.
選択公理⇒☆⇒Zornの補題⇒選択公理 というふうに証明をしたので,じつは命題☆も選択公理と同値だったんですね~.
あ,そういえば明けましておめでとうございます.
参考文献
整列可能定理
ひかるさんのアドベントカレンダー企画の3日目の記事です.
このあいだの記事で整列集合のことを少し書きました.
$\mathbb{N}$は普通の大小関係で整列集合になってます.
$\mathbb{Z}$とかも普通の大小関係は整列順序じゃないけど$0<-1<1<-2<2<...<-n<n<...$と並べ直したら整列集合になってます.
こんなふうに,ある順序で整列集合でないような集合でも別の順序では整列集合になっていたりします.
有名ですが,じつは,どんな集合にも整列順序が入れられるというのは選択公理と同値です.
つまり,次の2つが同値です.
任意の集合族$\{X_{\alpha}|\alpha\in A\}$に対して,各$\alpha\in A$で$\varphi(\alpha)\in X_{\alpha}$となる写像$\varphi\colon A\to\underset{\alpha\in A}{\cup}X_{\alpha}$(選択関数)が存在する.
整列可能定理
任意の集合はある順序で整列集合になる.
じゃあ,証明していきます.
(選択公理⇒整列可能定理の証明)
任意の集合$X$を考える.
$\varphi\colon 2^X\colon X$を選択関数とする.つまり,各$Y\subseteq X$で$\varphi(Y)\in Y$とする.
$X$の各部分集合$Y$に関する次の2つの性質を合わせてPと呼ぶことにする.
(P1)$Y$は整列順序を入れられる.
(P2)任意の$y\in Y$で$y=\varphi(X-Y<y>)$である.
性質Pをみたす集合全体を$A$で添え字づけて$\{Y_{\alpha}|\alpha\in A\}$としておく.
また,$Y\colon=\underset{\alpha\in A}{\cup}Y_{\alpha}$とする.
次の3つのステップに分けて証明を進めていきます.
ステップ1
各$\alpha,\beta\in A$について次のいずれかひとつが成り立ち,成り立つのはひとつだけである.
(ア)$Y_{\alpha}=Y_{\beta}$.
(イ)$Y_{\alpha}<a>=Y_{\beta}(\exists a\in Y_{\alpha})$.
(ウ) $Y_{alpha}=Y_{\beta}<b>(\exists b\in Y_{\beta})$.
ステップ2
$Y$は性質Pをみたす.
ステップ3
じつは$Y=X$である.
じゃあ順番に示していきます.
(ステップ1)
各$\alpha,\beta\in A$で$Y_{\alpha},Y_{\beta}$は整列集合なので,前の記事で書いた比較定理より次のいずれかが成り立ち,成り立つのはひとつだけである.
(あ)$Y_{\alpha}\cong Y_{\beta}$
(い)$Y_{\alpha}<a>\cong Y_{\beta}(\exists a\in Y_{\alpha})$
(う)$Y_{\alpha}\cong Y_{\beta}<b>(\exists b\in Y_{\beta})$
この(あ),(い),(う)に対応してそれぞれ(ア),(イ),(ウ)が成り立つ.
(あ)が成り立つときを見てみる.
順序同型写像$f\colon Y_{\alpha}\to Y_{\beta}$を任意にとる.
すると,じつは$f$は恒等写像となるのでそれを背理法で示す.
$f$が恒等写像でないと仮定する.
つまり,$S\colon=\{y\in Y_{\alpha}|f(y)\neq y\}$として$S\neq\emptyset$と仮定する.
すると,$Y_{\alpha}$の性質(P1)より$S$は$\leq_{Y_{\alpha}}$での最小元$m $を持つ.
このときじつは$Y_{\alpha}<m>=Y_{\beta}<f(m)>$となる.
実際,$y\in Y_{\alpha}<m>$を任意にとると$y<_{Y_{\alpha}}m $より$y=f(y),f(y)<_{Y_{\beta}}$となり$y<_{Y_{\beta}}f(m)$となるので$y\in Y_{\beta}<f(m)>$となり$Y_{\alpha}<m>\subseteq Y_{\beta}<f(m)>$となるし,逆に$Y_{\beta}<f(m)>\subseteq Y_{\alpha}<m>$も同様に成り立つ.
よって,$m $について$Y_{\alpha},Y_{\beta}$の性質(P2)より,$m=\varphi(X-Y_{alpha}<m>)=\varphi(X-Y_{\beta}<f(m)>)=f(m)$となる.
ところがこれは$m\in S$つまり$f(m)\neq m$に反する.
よって$f$は恒等写像となり,$Y_{\alpha}=Y_{\beta}$となる.
(い)から(イ),(う)から(ウ)も同様に分かる.
(ステップ2)
まず,$Y$にいれる順序を決める.
$y,z\in Y$を任意にとると,ステップ1より,ある$\alpha\in A$で$y,z\in Y_{\alpha}$となる.
そこで,そのような$\alpha$を$\alpha(y,z)$と書くことにする.
そして,$Y$の順序を,各$y,z\in Y$について$y\leq_{Y}z\overset{def}{\Leftrightarrow}y<_{Y_{\alpha(y,z)}}z$で定める.
次は,この順序で$Y$が(P1)をみたすことを見ていく.
空でない任意の$Z\subseteq Y$を考える.
$Z$が$\leq_{Y}$で最小元を持つことを示せばいい.
$z\in Z$を任意にとる.
すると,ある$\alpha\in A$で$z\in Y_{\alpha}$となる.
この$\alpha$で$Z_{\alpha}\colon=Z\cap Y_{alpha}$とする.
$Y_{\alpha}$の性質(P1)より$Z_{\alpha}$は$\leq_{Y_{\alpha}}$での最小元$m $をもつ.
じつはこの$m $は$Z$の$\leq_{Y}$における最小元となるので,それを背理法で示す.
$m $が$Z$の$\leq_Y$における最小元でないと仮定する.
すると,ある$x\in Z$で$x<m $となる.
この$x$は,$Y_{\alpha}$の元でない.
実際,$x\in Y_{\alpha}$とすると$x\in Z_{\alpha}$となるがこれは$x<_{Y}m $に矛盾してしまう.
よって,ある$\beta\in A,Y_{\alpha}\neq Y_{\beta}$で$x\in Y_{\beta}$となる.
このとき,ステップ1の結果より,ある$b\in Y_{\beta}$で$Y_{\alpha}=Y_{\beta}<b>$となる.
すると,$m\in Z_{\alpha}\subseteq Y_{\alpha}=Y_{\beta}<b>$より$m<_{Y_{\beta}}b$である.
また,$x\in Y_{\beta},x\notin Y_{\alpha}=Y_{\beta}<b>$より,$b\leq_{Y_{\beta}}x$である.
したがって$m<_{Y_{\beta}}b\leq_{Y_{\beta}}x$となるが,これは$x\leq_{Y}m $に反する.
ゆえに仮定は誤りで,$m $は$Z$の$\leq_{Y}$における最小元である.
よって$Y$は整列集合となる.
最後に,$Y$が性質(P2)をみたすことを確認する.
任意の$y\in Y$を考える.
すると,ある$\alpha\in A$で$y\in Y_{\alpha}$である.
このとき,じつは$Y_{\alpha}<y>=Y<y>$となるので,それを示す.
.
まず,$Y_{\alpha}<y>\subseteq Y<y>$はいい.($Y_{\alpha}\subseteq Y$だから.)
逆に$Y<y>\subseteq Y_{\alpha}<y>$を示す.
そのためには,$Y<y>\subseteq Y_{\alpha}$を示せば十分であるので,これを背理法で示す.
つまり,$Y<y>\nsubseteq Y_{\alpha}$と仮定する.
すると,$x\in Y<y>-Y_{\alpha}$がとれる.
このとき,ある$\beta\in A,Y_{\alpha}\neq Y_{\beta}$で$x\in Y_{\beta}$となる.
この$\beta$について,ステップ1の結果より,ある$b\in Y_{\beta}$で$Y_{\alpha}=Y_{\beta}<b>$となる.
この$b$について,$x<_{Y_{\beta}}b$または$b\leq_{Y_{\beta}}x$である.
$x<_{Y_{\beta}}b$のときは,$x\in Y_{\beta}<b>=Y_{\alpha}$となって$x\notin Y_{\alpha}$に矛盾する.
$b\leq_{Y_{\alpha}}x$のときは,$y\in Y_{\alpha}=Y_{\beta}<b>$より$y<_{Y_{\beta}}b\leq_{Y_{\beta}}x$となるがこれは$x\in Y<y>$に矛盾する.
よって仮定は誤りで,$Y<y>\subseteq Y_{\alpha}$となる.
つまり$Y<y>\subseteq Y_{\alpha}<y>$となる.
以上から$Y_{\alpha}<y>=Y<y>$となる.
よって,$Y_{\alpha}$の性質(P2)に注意して$y=\varphi(X-Y_{\alpha}<y>)=\varphi(X-Y<y>)$となる.
つまり$Y$は性質(P2)をみたす.
(ステップ3)
$Y\subseteq X$はいいので,$X\subseteq Y$を背理法で示す.
つまり,$X\nsubseteq Y$と仮定する.
すると,$a\colon=\varphi(X-Y)$がとれる.
$Z\colon=Y\cup{a}$として,$Z$に次のように順序を入れる.
各$z,w\in Z$で$z<_{Z}w\overset{def}{\Leftrightarrow}z<_{Y}w(z,w\in Y)\lor w=a$.
すると,この順序で$Z$は性質Pをみたす.
よって,ある$\alpha\in A$で$Z=Y_{\alpha}$と表せて$Z\subseteq Y$となる.
したがって$a\in Y$となる.
ところが$a$は定義から$X-Y$の元なので矛盾する.
よって仮定は誤りで$X\subseteq Y$となる.
以上から,$X=Y$となる.
ステップ2の結果より$Y$は整列集合なので,$X$も整列集合である.$■$
じゃあ逆向きも示していきます.
選択公理から整列定理を導くのは少し長かったけど,逆はわりとスッキリ示せます.
(整列可能定理⇒選択公理の証明)
任意の非空集合族$\{X_{\alpha}|\alpha\in A\}$を考える.
整列可能定理を用いて$\underset{\alpha\in A}{\cup}X_{\alpha}$に整列順序を入れる.
すると,各$\alpha\in A$で$X_{\alpha}$は最小元$m_{\alpha}$を持つ.
そこで,写像$\varphi\colon A\to \underset{\alpha}{\cup}X_{\alpha}$を$\varphi(\alpha)=m_{\alpha}(\forall\alpha\in A)$で定める.
するとこの$\varphi$が選択関数となっている.$■$
なんか特にオチとかもないけど,終わります.
参考文献
整列集合の定義と比較定理
今度整列可能定理の話とかを書きたいと思ってるので、その準備。
まず、順序集合の定義から。
集合$X$と$X$上の二項関係$\leq$が次の$(1),(2),(3)$を満たすとします。
$(1)\forall x\in X, x\leq x$
$(2)\forall x,y\in X,x\leq y\land y\leq x\Rightarrow x=y$
$(3)\forall x,y,z\in X,x\leq y\land y\land z\Rightarrow x\leq z$
このとき、$\leq$を$X$の順序といい、$(X,\leq)$は順序集合であるといいます。
順序が明らかなときは$(X,\leq )$を単に$X$と書いたりすることもあります。
順序集合$X$の任意の元同士が比較可能のとき、つまり次の$(4)$が成り立つとき、$X$は全順序集合であるといいます。
$(4)\forall x,y\in X,x\leq y\lor y\leq x$
全順序でない順序を特に半順序と呼んだりもします。
たとえば実数の普通の大小関係とかは全順序ですね。
てきとーに集合$X$を考えたとき、そのべき集合は集合の包含関係で半順序です。
あと、複素数の集合には順序が入らないみたいなことを言う人がたまにいるみたいですけど(まあ実数の普通の大小関係と同じように入れられないという意味だとは思うけど)複素数にもたとえば辞書式順序とかで全順序が入ります。
つまり、各$x=a+bi,y=c+di\in\mathbb{C}(a,b,c,d\in\mathbb{R})$で$x\leq y\overset{def}{\Leftrightarrow}a\leq c\lor(a=c\land b\leq d)$で$\leq$を定めると$(\mathbb{C},\leq)$は全順序集合となります。
同じ集合でも順序の入れ方はいろいろあります。
たとえば自分の同級生たちの集合に、身長順で順序を入れたり体重順で順序を入れたりできるみたいな感じです。
2つの順序集合を考えるときは、順序の構造が似てるかどうかというのをよく調べます。
順序構造が似てるかどうかというのは、元の対応で考えます。
$(X,\leq_X),(Y,\leq_Y)$が順序集合で$f\colon X\to Y$が次の条件を満たすとき$f$は順序を保つ写像であるといいます。
$\forall a,b\in X,a\leq_X b\Rightarrow f(a)\leq_Y f(b)$
順序を保つ写像$f$が全単射で逆写像も順序を保つとき特に$f$を同型写像といいます。
$X$と$Y$の間に同型写像があるとき$X$と$Y$は同型であるといって、そのことを$X\cong Y$と書きます。
順序集合どうしの同型という関係は、同値関係になっています。
同型な集合同士は同じような順序構造が入っているといえます。
たとえば$\mathbb{N}$と$\mathbb{Z}$は普通の大小関係では同型にはなりません。
($\mathbb{N}$には最小元があるけど$\mathbb{Z}$には最小元がないから。)
でも、$\mathbb{Z}$を$\{0,-1,1,-2,2,…,-n,n,…\}$と並び替えたら$\mathbb{N}\cong\mathbb{Z}$となります。
今度は、整列順序というものの話をします。
$X$が(全)順序集合で、空でない任意の部分集合$Y$が最小元を持つとき、その順序を整列順序といい、$X$を整列集合といいます。
「(全)順序集合」と書いたのは、全順序を要請するのをたまに見かけるからです。
でも、実は$X$半順序集合でも、各非空部分集合が最小元を持てば勝手に全順序になります。
(各$x,y\in X$について$\{x,y\}$が最小元を持つから。)
すぐ分かるように、整列集合はその部分集合もまた整列集合になります。
整列集合のイメージは、$\mathbb{N}$っぽい感じです。
$\mathbb{Z}$とかもさっきみたいに並べ直すと整列集合になります。
整列集合について、次の命題があります。
$W$が整列集合で単射$f\colon W\to W$が順序を保つとき、任意の$x\in W$で$x\leq f(x)$となる。
(証明)
$A\colon=\{x\in X|x\leq f(x)\},B\colon=\{x\in X|f(x)<x\}$とおく。
$W$は全順序だから$W=A\cup B$となる。
よって、$B=\emptyset$をいえばいい。
背理法で$B=\emptyset$を示す。
$B\neq\emptyset$と仮定すると、$B$は最小元$m $をもつ。
この$m $について、$m\in B$より$f(m)<m $である。
$f$は単射で順序を保つので$f(f(m))<f(m)$となり、$f(m)\in B$となる。
ところが$f(m)$は$m $つまり$B$の最小元より小さいので矛盾している。
従って$B=\emptyset$となり、$W=A$となる。$■$
次に切片というのを紹介します。
整列集合$W$と各元$a\in W$について、$a$より小さい元全体を$a$による$W$の切片と呼び、$W<a>$と書きます。
つまり$W<a>=\{x\in W|x<a\}$です。
切片は次のように特徴づけられます。
つまり、整列集合$W$と真部分集合$L\subset W$について次が成り立ちます。
$\exists a\in W,L=W<a>\Leftrightarrow\forall x\in L,W<x>\subseteq L$
(証明)
$\Rightarrow$は当たり前。
$\Leftarrow$を確認する。
$W-L$は空でないのでその最小元$m$が存在する。
この$m $について、$W<m>\subseteq L$となる。
実際、$x\in W<m>$を任意にとると$x<m $であるが、もしも$x\notin L$とすると$x\in (W-L)$となり$(W-L)$の最小元$m $より小さいことに反するので、$x\in L$となる。
逆に$L\subseteq W<m>$も成り立つ。
実際、$y\in L$を任意にとり、もし$y\notin W<m>$と仮定すると$m\leq y$より$m\in W<y>$となり条件から$m\in L$となるがこれは$m\in (W-L)$に反するので、$y\in W<m>$となる。
以上から$L=W<m>$となる。$■$
整列集合$W$から$W$自身への順序をたもつ写像についての性質から、切片について次が成り立ちます。
$(1)\forall x\in W,W\ncong W<x>$
$(2)\forall x,y\in W,x\neq y\Rightarrow W<x>\ncong W<y>$
(証明)
(1)
背理法で示す。
ある$a\in W$で$W\cong W<a>$となるとする。
すると、順序同型$f\colon W\to W<a>$が存在する。
$a\in W$について$f(a)\in W<a>$より$f(a)<a$となるが、これはさっきの命題に反する。
よって、$W\cong W<a>$となる$a\in W$は存在しない。
(2)
$x,y\in W,x\neq y$を任意にとる。
$W$は全順序なので$x<y$としてよい。
このとき$(W<y>)<x>=W<x>$なので、(1)から$W<y>\ncong W<x>$となる。$■$
また、2つの同型な整列集合$V,W$について次が成り立ちます。
$(1)\forall a\in V,\exists!b\in W,V<a>\cong W<b>$
$(2)$同型写像$V\to W$はただひとつしか存在しない。
(証明)
(1)
$f\colon V\to W$を同型写像とする。
各$a\in V$に対して、$V<a>\cong W<f(a)>$である。
また、$b,c\in W$で$W<a>\cong W<b>,W<a>\cong W<c>$のとき$W<b>\cong W<c>$となるのでさっきの命題から$b=c$となります。
(2)
任意の同型写像$f,g\colon V\to W$を考える。
任意の$x\in V$について、$W<f(x)>\cong W<g(x)>$となるのでさっきの命題から$f(x)=g(x)$となる。
よって$f=g$となる。$■$
最後に、ふたつの整列集合$V,W$についての重要な定理をひとつ紹介しておきます。
整列集合の比較定理
任意の整列集合$V,W$について、次の(あ)、(い)、(う)のうちひとつが必ず成り立ち、成り立つのはひとつだけである。
(あ)$V\cong W$
(い)$\exists a\in V,V<a>\cong W$
(う)$\exists b\in W,V\cong W<b>$
(証明)
$K\colon=\{x\in V|\exists!y\in W,V<x>\cong W<y>\}$
$L\colon=\{y\in W|\exists!x\in V,V<x>\cong W<y>\}$とする。
すると、$K$と$L$には自然に一対一の対応がつく。
その対応を$f$とすると$f$は順序同型である。
各$x\in K$について$V<x>\cong W<f(x)>$となるので、同型写像$g_x\colon V<x>\to W<f(x)>$が一意的にとれる。
$K\neq V$のときある$a\in V$で$K=V<a>$となるので、それを示す。
任意の$x\in K$を考える。
$z\in V<x>$を任意にとると$g_z$の$V<z>$での制限によって$V<z>\cong W<f(g_x(z))>$となり、$z\in K$となる。
つまり$V<x>\subseteq K$となる。
よって、さっき書いた切片の特徴から、ある$a\in V$で$ K=V<a>$となる。
同様にして、$L\neq W$のときある$b\in W$で$L=W<b>$となる。
したがって、$V,W,K,L$について、次の4つの状況が起こり得る。
(ア)$K=V,L=W$
(イ)$K=V,L=W<b>(\exists b\in W)$
(ウ)$K=V<a>(\exists a\in V),L=W$
(エ)$K=V<a>(\exists a\in V),L=W<b>(\exists b\in W)$
ただし、実際には(エ)は起こり得ない。
(もし(エ)のような状況が起きれば、$V<a>\cong W<b>$より$a\in K$つまり$a\in V<a>$となるがこれは切片の定義に反するから。)
$K\cong L$だから、(ア)、(イ)、(ウ)のときそれぞれ(あ)、(い)、(う)が成り立つ。
(あ)、(い)、(う)のいずれも両立しないのは、さっき書いた整列集合についての命題から分かる。$■$
おわり。
今度は、この整列集合の比較定理を使って、選択公理と整列可能定理の同値になる証明を書きます。そのうち。
参考文献
数学たん(@suugakutan)さんの一連のツイート。