ぱいおつ日記

ぱいおつは終わりました。

代数学の基本定理の(シローの定理やガロア理論を用いた)代数的証明

こんにちは,ぱいです.

院試がとりあえず一段落ついて,ほっとしてます.

まだ合否発表待ちなのでドキドキしていますが.

 

このあいだ本屋さんをウロウロしていたら「代数学の基本定理」というタイトルの本を見つけました.

代数学の基本定理とは

複素数係数の多項式は必ず複素数の根をもつ

という定理です.

たとえば複素数係数の2次多項式 $ax^{2}+bx+c$ の場合は,これは $\mathbb{C}$ において根 $\displaystyle\frac{b\pm\sqrt{b^{2}-4ac}}{2a}$ を持ちますよね.

代数学の基本定理は,このような複素数係数の多項式は2次以外の場合でも(具体的な根が求められるかどうかは別として)複素数の範囲で根を持つという主張です.

その完全な証明は18世紀にガウスが初めて与えたといわれています.

この本はその代数学の基本定理のいろいろな観点からの異なる証明がひたすら書いてあり,面白そうだったのでつい衝動買いしてしまいました.

でも,買っただけで満足してしまったというわけではないのですが,ゼミやら院試やらで忙しくてなかなか読むひまがなくてずっと本棚に眠らせてしまっていました(あるあるですよね).

ゼミや院試に区切りがついたので最近やっとパラパラと目を通しているのですが,やっぱり面白いです.

数えてみると,微積や位相とかを駆使して,11種類もの異なる証明が載っていました.

しかもその証明に使われる分野の基礎事項のちょっとした解説とかも載っていて,これはもしかすると院試前に読んでいれば良い試験勉強になったのかもしれないなと思いました.

まあもう終わったことなので,そんなこと考えても仕方ありませんが(笑)

 

さて,せっかくなので,この本のなかで僕が特に面白いと感じた証明をこのブログにまとめておきます.

 

 

その前にまずは,代数学の基本定理よりも弱い,

奇数次数の実数係数多項式は必ず実数の根をもつ

という命題を考えてみましょう.

$f(x)$ を奇数次数の実数係数多項式とすると,$f(x)$ の最高次の係数は正としてよくて,$\displaystyle\lim_{x\to\infty}f(x)=\infty,\ \lim_{x\to-\infty}f(x)=-\infty$ なので中間値の定理から $f(x)$ は実根をもちます.

 

これは中間値の定理,つまり実数の連続性から示されていて,その流れで代数学の基本定理微積や位相を使って証明することができます.

僕は今までそういうのを使った証明しか知りませんでした.

それで,代数学の基本定理なんていう名前なのに証明に代数を全然使わないのがなんだかムズムズするな~~~と思っていました.

そこで代数を使った証明に出会って感動したので,その証明を紹介します.

 

その証明の中で群論や体論を使うので,それらについて軽く復習しておきます.

 

 

まずは群論の必要な部分を抜粋しておさらいします.

 

集合 $G$ に結合法則をみたす2項演算が入っていて単位元や各元の逆元が存在するとき,$G$ は群であるといいます.

$G$ の演算が交換法則もみたすときは $G$ をアーベル群といいます.

群 $G$ の部分集合 $H$ が $G$ と同じ演算で群になるとき,$H$ は $G$ の部分群であるといいます.

群 $G$ の元の個数を $G$ の位数と呼び,$|G|$ で表します.

 

素数 $p$ と正の整数 $n$ で $|G|=p^{n}$ のとき,$G$ を$p$群と呼びます.

$|G|=p^{n}$ のとき $G$ は位数 $p^{n-1}$ の部分群をもつことが知られています.

これは,$G$ の中心による剰余群とかを考えて数学的帰納法で示すことができます.

 

$|G|=p^{n}a$ ($p$:素数,$p$ と $a$ は互いに素) のとき,位数 $p^{n}$ の部分群を$p$シロー部分群と呼びます.

$|G|=p^{n}a$ のとき $G$ は必ず$p$ シロー部分群をもち,その個数は $p$ で割ると $1$ あまりかつ $a$ の約数であることが知られています.

また,$G$ の$p$部分群はある$p$シロー部分群の部分群となります.

これらの結果はシローの定理と呼ばれています.(冗長になるので証明は略.)

 

 

次は体論をザッとおさらいしましょう.

 

集合 $K$ が加法,乗法と呼ばれる2種類の演算をもち, 加法について $K$ はアーベル群とし,単位元を $0$ とします.$K\setminus\{0\}$ が乗法で群となり,分配法則も成り立つとき,$K$ を体といいます.

 

$L$ が体でその部分集合 $K$ が同じ演算で体となるとき, $K$ は $L$ の部分体であるといいます.またこのとき $L$ は $K$ の拡大体であるといい,このことを $L/K$ が体の拡大であるといいます.

$L/K$ が体の拡大で $K\subset M\subset L$ で $M $も同じ演算で体のとき,$M $ は $L/K$ の中間体であるといいます.

$L/K$ が体の拡大のとき $L$ の$K$線形空間としての次元を拡大の次数と呼び $[L:K]$ と書き,$[L:K]=d<\infty$ のとき $L/K$ は $d$ 次拡大であるといいます.

$M $ が $L/K$ の中間体のとき,拡大次数が有限なら\begin{eqnarray}[L:K]=[L:M][M:K]\end{eqnarray}が成り立ちます.

 

$L/K$ が体の拡大で,任意の $x\in L$ がある $K$ 上多項式の根となるとき,$L/K$ は代数拡大であるといいます. 

$L/K$ が代数拡大で $\alpha\in L$ のとき,$K$ 上1変数有理式に $\alpha$ を代入したものの全体を $K(\alpha)$ と記すと $K(\alpha)$ は $K$ の拡大体であり,$K(\alpha)/K$ を単純拡大といいます.

また,単純拡大 $K(\alpha)$ の $\alpha$ を原始元といいます.

 

原始元 $\alpha$ に対して,$\alpha$ を根にもつ $K$ 上多項式で零でないもののうち次数が最小のものを $\alpha$ の $K$ 上最小多項式と呼び,これは $K[x]$ において既約です.

単純拡大 $K(\alpha)/K$ の拡大次数と $\alpha$ の$K$ 上最小多項式 $f(x)$ の次数について\begin{eqnarray}[K(\alpha):K]=\deg f(x)\end{eqnarray}が成り立ちます.

 

 

ここからはガロア理論の基本定理を目標におさらいをしていきますが,冗長になるためこれも証明は略します.

 

$L/K$ が体の拡大で $K$ 上の多項式が必ず $L$ で根をもつとき,$L$ は $K$ の代数閉包であるといいます.

$f(x)\in K[x]$ が $K$ の代数閉包で重根をもたないとき,$f(x)$ は $K$ 上の分離多項式であるといいます.

$L/K$ が代数拡大で任意の $\alpha\in L$ の最小多項式が分離多項式のとき,$L/K$ を分離拡大といいます.

有限次分離拡大は必ず単純拡大となることが知られています.

また,標数 $0$ の体の有限次拡大は必ず分離拡大であることも知られており,$\mathbb{Q}$ や $\mathbb{R}$,$\mathbb{C}$,またこれらの拡大も標数は $0$ です.

 

$L/K$ が代数拡大で任意の $\alpha$ の $K$ 上最小多項式 $f(x)$ の根がすべて $L$ に含まれるとき,$L/K$ を正規拡大といいます.

 

分離的な有限次正規拡大のことを,ガロア拡大といいます. 

つまり,標数 $0$ の体においてガロア拡大とは有限次正規拡大のことです.

$L/K$ がガロア拡大のとき,$K$ を固定する $L$ の自己同型写像全体の集合を $\mathrm{Gal}(L/K)$ と記します.

$\mathrm{Gal}(L/K)$ は群となるので,これをガロア拡大 $L/K$ のガロア群と呼びます.

$\mathrm{Gal}(L/K)$ の部分群 $H$ に対して,任意の $σ\in H$ で $σ(x)=x$ となるような $x\in L$ の全体の集合を $L^{H}$ と記すと,これは $L/K$ の中間体となり,これを $H$ の不変体といいます.

$L/K$ が代数拡大で,$L$ のすべての元の $K$ 上最小多項式の代数閉包における根をすべて $L$ に付け加えて作った体を $\tilde{L}$ と記すと,$\tilde{L}$ は$K$ のガロア拡大体となり,これを $L/K$ のガロア閉包といいます.

 

$L/K$ をガロア拡大とすると,$L/K$の任意の中間体 $M $ に対して $L/M $ もガロア拡大となります. 

$G=\mathrm{Gal}(L/K)$ とおくと,ガロア群 $G$ の部分群全体とガロア拡大 $L/K$ の中間体全体との間には\begin{eqnarray}H\longleftrightarrow L^{H}\end{eqnarray}という1対1対応があります.

また,ガロア群の位数とガロア拡大の次数の間には\begin{eqnarray}|G|=[L:K]\end{eqnarray}という関係があります.

そして,ガロア群の部分群 $H$ と対応する中間体 $L^{H}$ の拡大次数との間には\begin{eqnarray}[L^{H}:K]=|G|/|H|\end{eqnarray}という関係が成り立ちます.

これらの結果は,ガロア理論の基本定理と呼ばれています.

 

 

さて,以上の道具を使って代数学の基本定理を証明します.

そのための準備として,$\mathbb{R}$ や $\mathbb{C}$ の拡大について,次の(1),(2)を示しておきます.

(1) $\mathbb{R}$ の非自明な有限次拡大は偶数次数である.

(2) $\mathbb{C}$ は2次拡大をもたない.

 

(1)

$\mathbb{R}$ の非自明な有限次拡大 $K$ を任意にとり,拡大次数を $[K:\mathbb{R}]=2^{n}q$ ($q$:奇数) とします.

$K/\mathbb{R}$ は有限次分離拡大ゆえ単純拡大なので,ある $\alpha$ で $K=\mathbb{R}(\alpha)$ となります.

$\alpha$ の $\mathbb{R}$ 上最小多項式を $f(x)$ とすると $\deg f(x)=[K:\mathbb{R}]=2^{n}q$ です.

もし $n=0$ と仮定すると $\deg f(x)=q$ は奇数だが,奇数次数の $\mathbb{R}$ 上多項式は必ず実根をもつので,$f(x)$ が既約となるのは $q=1$ の時のみです.

ところがこのとき $\alpha\in\mathbb{R}$ となり $K=\mathbb{R}$ となるので矛盾します.

よって $n\neq 0$ となります.■

 

(2)

2次拡大 $K/\mathbb{C}$ が存在すると仮定します.

このとき,(1)の証明と同様にしてある $\alpha$ で $K=\mathbb{C}(\alpha)$ となり,$\alpha$ の $\mathbb{C}$ 上最小多項式を $f(x)$ とすると $\deg f(x)=2$ となります.

ところが最初に例で見たように複素数上の2次多項式は $\mathbb{C}$ に根を持つので $K=\mathbb{C}$ となり矛盾します.

よって $\mathbb{C}$ は2次拡大をもちません.■

 

 

ではいよいよ,代数学の基本定理を証明します.

 

$\mathbb{C}$ 上の多項式 $f(x)$ を任意にとり, $f(x)$ の根をすべて含むような最小の体を $K$ とします.

$K=\mathbb{C}$ を示せばよいです.

 

$K/\mathbb{R}$ のガロア閉包を $\tilde{K}$ とおくと,$\tilde{K}/\mathbb{R}$ はガロア拡大だからガロア理論の基本定理より $\tilde{K}/\mathbb{C}$ もガロア拡大です.

(1) より $\tilde{K}/\mathbb{R}$ の拡大次数は $[\tilde{K}:\mathbb{R}]=2^{n}q$ ($n>0$, $q$:奇数) と表せます.

$\tilde{K}/\mathbb{R}$ のガロア群を $G=\mathrm{Gal}(\tilde{K}/\mathbb{R})$ とおくと ガロアの基本定理より $|G|=[\tilde{K}:\mathbb{R}]=2^{n}q$ となります.

よって,シローの定理より $G$ は$2$シロー部分群 $H$, $|H|=2^{n}$ を持ちます. 

この部分群 $H$ には中間体 $\tilde{K}^{H}$ が対応していて,$\tilde{K}^{H}/\mathbb{R}$ の拡大次数をガロア理論の基本定理を用いて求めると\begin{eqnarray}[\tilde{K}^{H}:\mathbb{R}]&=&|G|/|H|\\&=&q\end{eqnarray}となります.

よって (1) から $q=1$ となり,$\tilde{K}^{H}=\mathbb{R}$, $|G|=[\tilde{K}:\mathbb{R}]=2^{n}$ となります.

したがって $\tilde{K}/\mathbb{C}$ の拡大次数は\begin{eqnarray}[\tilde{K}:\mathbb{C}]&=&[\tilde{K}:\mathbb{R}]/[\mathbb{C}:\mathbb{R}]\\&=&2^{n-1}\end{eqnarray}となります.

(2) より $\mathbb{C}$ は2次拡大を持たないので,$n\neq 2$,つまり $n=1$ または $n>2$ です.

ここで $n>2$ と仮定します.

$\mathrm{\tilde{K}/\mathbb{C}}$ のガロア群を $G_{1}=\mathrm{Gal}(\tilde{K}/\mathbb{C})$ とおくと,ガロア理論の基本定理より\begin{eqnarray}|G_{1}|&=&[\tilde{K}:\mathbb{C}]\\&=&2^{n-1}\end{eqnarray}です.

よって $G_{1}$ は位数 $2^{n-2}$ の部分群 $H_{1}$ を持ちます.

ガロア理論の基本定理よりこの $H_{1}$ は中間体 $\tilde{K}^{H_{1}}$ と対応していて\begin{eqnarray}[\tilde{K}^{H_{1}}:\mathbb{C}]&=&|G_{1}|/|H_{1}|\\&=&2\end{eqnarray}となります.

ところがこれは (2) と矛盾しています.

よって $n=1$ となり,$\tilde{K}/\mathbb{C}$ は自明な拡大となります.

したがって $\tilde{K}=\mathbb{C}$ となり $K=\mathbb{C}$ が得られました.■

 


これで証明はおしまいです.

奇数次の実数係数多項式が実根をもつという部分に目をつむればだいたい代数の言葉で証明が出来て,なんだか嬉しいですね. 

 

 

参考文献

[1] Fine, Benjamin; Rosenberger, Gerhard. (2002)『代数学の基本定理』(新妻弘・木村哲三訳) 共立出版

[2]雪江明彦(2013)『整数論1: 初等整数論からp進数へ』日本評論社