ぱいおつ日記

ぱいおつは終わりました。

素イデアルの拡大とか縮約とか

先週から,友達と自主ゼミでアティマク可換代数入門を読み始めた.

せっかくだから自分の発表の当番のところをまとめとこうと思う.

発表が終わってから何か気づいたり気づかされたりしたら修正したりするかも.

 

明日は1.7節「拡大と縮約」のところを発表する(予定).

 

 

$A,B$を環として,$f:A\rightarrow B$を環準同型とする.

$\mathfrak{a},\mathfrak{b}$をそれぞれ$A,B$のイデアルとする.

 

$f(\mathfrak{a})$は$B$のイデアルとなるとは限らない.

実際,たとえば$f:\mathbb{Z}\ni n\mapsto n\in\mathbb{Q}$で$\mathfrak{a}:=2\mathbb{Z}$とすると,$f(\mathfrak{a})=2\mathbb{Z}$だが,$\frac{1}{2}×2=1\notin2\mathbb{Z}$なのでこれは$B$のイデアルでない.

 

そこで,$f(\mathfrak{a})$の生成するイデアル$(f(\mathfrak{a}))=\{\displaystyle\sum_{i=0}^{n}f(x_{i})b_{i}|n\in\mathbb{N},x_{i}\in\mathfrak{a},b_{i}\in B\}$を$\mathfrak{a}$の拡大と呼び$\mathfrak{a}^{e}$と記す.

 

さっきの例では$\mathfrak{a}^{e}=\mathbb{Q}$となる.($1=\frac{1}{2}×2\in (2\mathbb{Z})$だから.)

 

一方,$f^{-1}(\mathfrak{b})$は$A$のイデアルとなるので,これを$\mathfrak{b}$の縮約と呼び$\mathfrak{b}^{c}$と記す.(補集合の記号とまぎらわしいよねコレ.)

 

 

$\mathfrak{b}$が$B$の素イデアルなら,縮約も$A$の素イデアルとなる.

実際,$xy\in\mathfrak{b}^{c}$なる$x,y\in A$を任意にとると$f(x)f(y)=f(xy)\in\mathfrak{b}$より$f(x)\in\mathfrak{b}$または$f(y)\in\mathfrak{b}$つまり$x\in\mathfrak{b}^{c}$または$y\in\mathfrak{b}^{c}$となる.

 

一方で,$\mathfrak{a}$が$A$の素イデアルであってもその拡大が$B$で素イデアルとなるとは限らない.

(あとで$\mathbb{Z}[\sqrt{{-1}}]$の例で確認する.)

 

$f$が全射のときは${\rm ker}f\subseteq\mathfrak{a}$で$\mathfrak{a}$が$A$の素イデアルなら$f(\mathfrak{a})$は$B$の素イデアルとなる.

それは次のようにわかる.

$xy\in f(\mathfrak{a})$なる$x,y\in B$を任意にとるとある$a,b\in A$で$f(a)=x,f(b)=y$であり,$c\in\mathfrak{a}$で$f(c)=xy$となる.

このとき$f(ab-c)=f(a)f(b)-f(c)=xy-xy=0$より$ab-c\in{\rm ker}f$だから$ab-c\in\mathfrak{a}$となり,$ab=(ab-c)+c\in\mathfrak{a}$となる.

よって$a\in\mathfrak{a}$または$b\in\mathfrak{a}$つまり$x\in f(\mathfrak{a})$または$y\in f(\mathfrak{a})$となる.

 

 

さて,素イデアルの拡大の例として,$f:\mathbb{Z}\ni n\mapsto n\in\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$で$\mathbb{Z}$の素イデアルの拡大がどうなるか考えてみよう.

 

 

まず,$\,mathbb{Z}$の素数$2$の生成する素イデアル$2\mathbb{Z}$を考えてみる.

$(2\mathbb{Z})^{e}=(1+\sqrt{-1})^{2}\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$つまり$(2\mathbb{Z})^{e}=2\sqrt{-1}\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$となることがすぐわかるが,これは$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$の素イデアルではない.

実際,$1+\sqrt{1}\notin2\sqrt{-1}\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$だけど$(1+\sqrt{-1})(1+\sqrt{-1})=2\sqrt{-1}\in 2\sqrt{-1}\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$となる.

 

 

次に,$\mathbb{Z}$の素数$p\equiv 1 \mod 4$の生成する素イデアルの拡大を考えてみよう.

 

 

その前に,$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$が$\rm PID$であること,つまり任意のイデアルがある1つの元で生成されるような整域であることを示しておく.

 

まず$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$が整域であることを示す.

$xy=0,x\neq 0$なる$x,y\in\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$を任意にとる.

$a,b,c,d\in\mathbb{Z}$で$x=a+b\sqrt{-1},y=c+d\sqrt{-1}$と表せる.

$xy=(ac-bd)+(ad+bc)\sqrt{-1}$より$ac-bd=0,ad+bc=0$となる.

$x\neq 0$より$b\neq 0$なので$d=frac{ac}{b}$と表せて,$a\frac{ac}{b}+bc=0$つまり$(a^{2}+b^{2})c=0$となる.

$x\neq 0$より$a\neq 0$なので$a^{2}+b^{2}\neq 0$だから$c=0$となる.

このとき$d=\frac{ac}{b}=0$となる.

よって$y=0$となるので$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$は整域.

 

次に,$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$は余りのある割り算みたいなことができる.

実際,任意にとった$a,b\in\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$に対して,$|m-{\rm Re}\frac{a}{b}|\leq\frac{1}{2},|n-{\rm Im}\frac{a}{b}|\leq\frac{1}{2}$なる$m,n\in\mathbb{N}$で$q:=m+n\sqrt{-1},r:=a-bq$とおくと,$a=bq+r,0\leq |r|<|b|$となる.

よって$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$はユークリッド整域で,したがって$\rm PID$となる. 

 

 

また,$\rm PID$において,既約元の生成するイデアルは素イデアルとなることも示しておく.

ただし,「$p=xy$なら$x$または$y$は単元である」が成り立つような$p$を既約元と呼ぶ.

 

$A$を$\rm PID$,$p$を$A$の既約元とする.

$ab\in(p),b\notin(p)$なる$a,b\in A$を任意にとる.

イデアルの和$(p)+(b)$に対して,$A$は$\rm PID$だからある$c\in A$で$(p)+(b)=(c)$と表せる.

このとき,$(p)\underset{\subset}{\neq}(c)$である.($(c)=(p)$だと$b\in(p)+(b)=(p)$となり矛盾するから.)

よって,ある非単元$k\in A$で$p=kc$と表せる.

今,$p$は既約だから$c$は単元となり,したがって$(p)+(b)=(c)=A$となる.

このとき$1\in A=(p)+(b)$となり,ある$x,y\in A$で$1=px+by$と書ける.

この両辺に$a$をかけて$a=apx+aby\in (p)$を得るので,$(p)$は素イデアルである.

 

 

さて,$p\equiv 1\mod 4$で$p\mathbb{Z}$の拡大を考えてみよう.

 

この$p$はある$m,n\in\mathbb{Z}$で$p=m^{2}+n^{2}$と表せる.(フェルマーの平方和の定理.)

つまり$p=(m+n\sqrt{-1})(m-n\sqrt{-1})$なので$(p)^{e}=(m+n\sqrt{-1})(m-n\sqrt{1})$となる.

 

$(m+n\sqrt{-1})$と$(m-n\sqrt{-1})$は異なるイデアルであることを背理法で示す.

これらが同じイデアルであると仮定すると,ある$a,b\in\mathbb{Z}$で$m+n\sqrt{-1}=(m-n\sqrt{-1})(a+b\sqrt{-1})=(ma+nb)+(mb-na)\sqrt{-1}$と表せる.

このとき$m=ma+nb,n=mb-na$より$m(1-a)=nb,n(1+a)=mb$となる.

$a=1$の場合$n=0$が導かれて,$p$が素数であることに矛盾する.

$a\neq 1$の場合,$m=\frac{b}{1-a}n$より$n(1+a)=\frac{b^{2}}{1-a}n$つまり$a^{2}+b{2}=1$となる.

$a,b\in\mathbb{Z}$より$a=0$または$b=0$となるが,$a=0$のときは$m=0$が導かれ,$b=0$のときは$m=-n$が導かれ,いずれにしても$p$が素数であることに反する.

よって,$(m+n\sqrt{-1})$と$(m-n\sqrt{-1})$は異なるイデアルである.

 

また,$(m+n\sqrt{-z})$は$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$の素イデアルであるのでそれを示す.

まず,$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$の単元は$\pm 1,\pm\sqrt{-1}$のみである.

実際,$x$が単元ならある$y$で$xy=1$となるが,このとき$|x||y|=1$だから,$|x|,|y|\in\mathbb{N}$に注意して$|x|=1$を得るので$x=\pm 1,\pm\sqrt{-1}$となる.

$m+n\sqrt{-1}=ab$なる$a,b\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$を任意にとると,両辺の絶対値を取り$p=|a||b|$となる.

$|a|,|b|\in\mathbb{N}$で,$p$は素数だから,「$|a|=1$かつ$|b|=p$」または「$|a|=p$かつ$|b|=1$」となる.

つまり$|a|$または$|b|$が単元となり,$m+n\sqrt{-1}$は既約であると分かる.

よって,$(m+n\sqrt{-1})$は素イデアルである.

 

同様にして$(m-n\sqrt{-1})$も素イデアルである.

 

以上から,$p\equiv 1\mod 4$のとき$p\mathbb{Z}$の拡大は2つの異なる素イデアルの積となる.

 

 

最後に,素数$p\equiv 3\mod 4$の生成する素イデアル$p\mathbb{Z}$の拡大を考えてみよう.

 

まず,この$p$で$p\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$が素イデアルであることを示す.

$p=ab$なる$a\in\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$,非単元$b\in\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$を任意にとる.

$p=ab$の両辺の絶対値をとると$p^{2}=|a||b|$となるが,$b$は非単元だから$|b|=p$または$|b|=p^{2}$となる.

$|b|=p$の場合ある$x,y\in\mathbb{Z}$で$b=x+y\sqrt{-1}$と表せて$|b|=x^{2}+y^{2}\equiv 0,1,2\mod 4$だが,これは$|b|=p\equiv 3\mod 4$に反する.

よって$|b|=p^{2}$つまり$|a|=1$となり,$p$は既約となり,従って$p\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$は素イデアルである.

 

次に,$(p\mathbb{Z})^{e}=p\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$となることを示す.

$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$は$\rm PID$だから,$(p\mathbb{Z})^{e}$はある$a\in\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$で生成される.

このとき,$a$は単元ではない.

実際,$a$が単元であると仮定すると$1\in(a)=(p\mathbb{Z})^{e}$よりある$m_{i},n_{i}\in\mathbb{Z}$で$1=\displaystyle\sum_{i=0}^{n}p(m_{i}+n_{i}\sqrt{-1})=p\displaystyle\sum_{i=0}^{n}+p\displaystyle\sum_{i=0}^{n}n_{i}\sqrt{-1}$となるが,$1=p\displaystyle\sum_{i=0}^{n}m_{i}$はおかしい.

$p\in(p\mathbb{Z})^{e}=(a)$よりある$b\in\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$で$p=ab$と表せる.

$p$は既約元で,$a$は単元でないので,$b$は単元である.

よって,$(p\mathbb{Z})^{e}=(a)=(p)$となる.

 

以上から,$(p\mathbb{Z})^{e}$は素イデアルである.

 

 

イデアルの縮約や拡大を見てみようみたいな話でしたー.

おやすみなさい.