ヒルベルトの基底定理
おひさしぶりです.
生きてます.
冬休みぐらいからずっとフラフラ遊んでてあんまり勉強してなかったんですけど,先週ぐらいからまたちょこっと勉強するようになってきた気がします.(自分で言うのもあれだけど.)
やってみるとやっぱり数学楽しいので,この調子で頑張れていけたらなーって思います.
昨日本を読んでて,ヒルベルトの基底定理っていうものが出てきてへえーーと思いました.(語彙力)
面白いこととかはあんまり書けないけど,勉強しててへえ~って思ったこととかを月に1回ぐらいブログとかで書くようにしたらモチベ維持になるかなーみたいなのをちょっと思うのでメモみたいな感じで書きます.
ヒルベルトの基底定理というのは,
「 $A$ がネーター環なら多項式環 $A[X_{1},X_{2},…,X_{n}]$ もネーター環である.」
というものです.
ネーター環というのは,任意のイデアルの昇鎖 $\mathfrak{a}_{0}\subseteq\mathfrak{a}_{1}\subseteq\mathfrak{a}_{2}\subseteq…$ が有限番目で必ず止まる,つまり,ある $n\in\mathbb{N}$ 番目から $\mathfrak{a}_{n}=\mathfrak{a}_{n+1}=\mathfrak{a}_{n+2}=…$ となるような環のことです.
(この記事では環といったら単位元をもつ可換環を指すことにします.)
(ネーター環にはどのイデアルも有限生成であるとか色々同値な定義があるけどこの記事ではこれでいきます.)
さて,定理の証明をする前に,あとで使う補題をちょっと紹介しておきます.
$A$ を環(ネーター環じゃなくてもいい)として,$\mathfrak{A},\mathfrak{B}$ を多項式環 $A[X]$ のイデアルとする.
また,各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $\mathfrak{a}_{n}:=\{a_{n}\in A|a_{n}X^{n}+a_{n-1}X^{n-1}+…+a_{1}X+a_{0}\in\mathfrak{A},a_{n}\neq 0 \}\cup\{0\}$ とする.
$\mathfrak{b}_{n}$ も $\mathfrak{B}$ に対して同じように定める.
このとき次が成り立つ.
(1)各 $\mathfrak{a}_{n}$ は $A$ のイデアルで, $\mathfrak{a}_{0}\subseteq\mathfrak{a}_{1}\subseteq\mathfrak{a}_{2}\subseteq…$ となる.
(2)$\mathfrak{A}\subseteq\mathfrak{B}$ なら各 $\mathfrak{a}_{n}\subseteq\mathfrak{b}_{n}$ となる.
(3)$\mathfrak{A}\subseteq\mathfrak{B}$,各 $\mathfrak{a}_{n}=\mathfrak{b}_{n}$ なら $\mathfrak{A}=\mathfrak{B}$ となる.
(証明)
(1の前半)
$\mathfrak{A}$ が $A[X]$ のイデアルであることに注意すると $f,g\in\mathfrak{A},\lambda\in A$ なら $f+g,\lambda f\in\mathfrak{A}$ である.
よって,$a_{n},b_{n}\in\mathfrak{a}_{n},\lambda\in A$ なら $a_{n}+b_{n},\lambda a_{n}\in\mathfrak{A}$ となる.
つまり,$\mathfrak{a}_{n}$ は $A$ のイデアルである.
(1の後半)
$f\in\mathfrak{A}$ なら $Xf\in\mathfrak{A}$ なので,$a_{n}\in\mathfrak{a}_{n}$ なら $a_{n}\in\mathfrak{a}_{n}$ となる.
よって,$\mathfrak{a}_{n}\subseteq\mathfrak{a}_{n+1}$ が各 $n\in\mathbb{N}$ で成り立つ.
(2)
$\mathfrak{A}\subseteq\mathfrak{B}$ のとき $f\in\mathfrak{A}$ なら $f\in\mathfrak{B}$ なので,$a_{n}\in\mathfrak{a}_{n}$ なら $a_{n}\in\mathfrak{b}_{n}$ となる.
(3)
背理法で示します.
$\mathfrak{A}\subseteq\mathfrak{B}$,各$\mathfrak{a}_{n}=\mathfrak{b}_{n}$ のとき,$\mathfrak{A}\neq\mathfrak{B}$ であると仮定する.
すると,$\mathfrak{B}$ の元であって $\mathfrak{A}$ の元でないようなものが存在する.
そこで,そのような元のうち次数が最小のものを $f$ として,$\deg f=n$ とおく.
【$n=0$ のとき】
$f\in\mathfrak{b}_{0},f\notin\mathfrak{a}_{0}$ となって $\mathfrak{a}_{0}=\mathfrak{b}_{0}$ に反する.
【$n>0$ のとき】
$f=a_{n}X^{n}+a_{n-1}X^{n-1}+...+a_{1}X+a_{0}$,各$a_{i}\in A$ とおく.
このとき $a_{n}\in\mathfrak{a}_{n}=\mathfrak{b}_{n}$ なので,ある $g\in\mathfrak{B}$ で $g=a_{n}X^{n}+b_{n-1}X^{n-1}+…+b_{1}X+b_{0}$,各$b_{i}\in A$ となる.
ここで $h:=f-g$ とおく.
$\mathfrak{A}\subseteq\mathfrak{B}$ より $g\in\mathfrak{B}$ で $\mathfrak{B}$ はイデアルなので,$h\in\mathfrak{B}$ となる.
また,$g\in\mathfrak{A},h+g=f\notin\mathfrak{A}$ なので $h\notin\mathfrak{A}$ である.
そして,$h=(a_{n-1}-b_{n-1})X^{n-1}+…+(a_{1}-b_{1})X+(a_{0}-b_{0})$ より $\deg h < n$ である.
整理すると $h\in\mathfrak{B},h\notin\mathfrak{A},\deg h <\deg f$ である.
ところがこれは $f$ の取り方に反する.
よって最初の仮定は誤りで,$\mathfrak{A}=\mathfrak{B}$ となる. $■$
この補題を使うと,次の定理が成り立ちます;
$A$ がネーター環なら多項式環 $A[X]$ もネーター環である.
(証明)
$A[X]$ のイデアルの昇鎖 $\mathfrak{A}_{0}\subseteq\mathfrak{A}_{1}\subseteq\mathfrak{A}_{2}\subseteq…$ を任意にとる.
各 $\mathfrak{A}_{i}$ と各 $j\in\mathbb{N}$ に対して $\mathfrak{a}_{i_{j}}:=\{a_{j}\in A|a_{j}X^{j}+a_{j-1}X^{n-1}+…+a_{1}X+a_{0}\in\mathfrak{A}_{i} \}\cup\{0\}$ とする.
すると,このイデアル $\mathfrak{a}_{i_{j}}$ たちについて,さっきの補題(1)(2)より次の図のような包含関係が成り立つ.
(図のかきかたがよく分からなかったからアナログでw)
図の対角線をたどって, $A$ のイデアルの昇鎖 $\mathfrak{a}_{0_{0}}\subseteq\mathfrak{a}_{1_{1}}\subseteq\mathfrak{a}_{2_{2}}\subseteq…$ を考える.
今 $A$ はネーター環なので,この昇鎖はある $N$ 番目( $N\in\mathbb{N}$ )で止まる.
この $N$ に対して,上の図から, $i\geq N,j\geq N$ なら $\mathfrak{a}_{i_{j}}=\mathfrak{a}_{N_{N}}$ となる.
また,各 $j=0,1,2,…,N-1$ で $A$ のイデアルの昇鎖 $\mathfrak{a}_{0_{j}}\subseteq\mathfrak{a}_{1_{j}}\subseteq\mathfrak{a}_{2_{j}}\subseteq…$ を考えると,これもある $m_{j}$ 番目(各 $m_{j}\in\mathbb{N}$)で止まる.
ここで $M=\max\{m_{0},m_{1},m_{2},…,m_{N-1},N \}$とおく.
$i\geq M $ なら,各 $j=0,1,2,…,N-1$ で $\mathfrak{a}_{i_{j}}=\mathfrak{a}_{M_{j}}$,各 $k=N,N+1,N+2,…$ で $\mathfrak{a}_{i_{k}}=\mathfrak{a}_{N_{N}}$ となる.
また,$k\geq N$ なら $\mathfrak{a}_{M_{k}}=\mathfrak{a}_{N_{N}}$ となる.
まとめると,$i\geq M $ なら各 $j=0,1,2,…$ で $\mathfrak{a}_{i_{j}}=\mathfrak{a}_{M_{j}}$ となる.
よって,補題(3)より,$\mathfrak{A}_{M}=\mathfrak{A}_{M+1}=\mathfrak{A}_{M+2}=…$ となる.
つまり,$A[X]$ はネーター環である. $■$
$A$ がネーター環のとき,この定理をくり返し用いると$A[X_{1},X_{2},…,X_{n}]$ もネーター環であることが分かる.
これからも何か面白いこと勉強したらちょいちょい書いていきたいなーって思います.
おしまい.
参考文献
成田正雄,イデアル論入門,共立全書,1970.